お昼寝に丁度いいようなうららかな陽気の日、日本さんから贈り物が届いた。

腕いっぱいに抱え込むような箱は、大きさの割にそれほど重くもなく、受け取ったリヒテンシュタインが苦労せずに兄の元まで運べる程度だった。揺れる度に乾いたガサガサという音がする。
数学書を開き、眉間に皺を寄せているスイスは難問にでも挑戦しているのか、かなり深く考え込んでいるようで、あまり邪魔したくないなと思いつつしかしリヒテンシュタインは声をかけた。

「集中していらっしゃる所を申し訳ありません、お兄様」

リヒテンシュタインがおどおどと呼びかけると、スイスはふと目を上げて息を吐いた。

「嗚呼、どうしたのであるか……リヒ」
「お邪魔してすみません。日本さんからお荷物が届いたのです」

宛名はスイス様、となっていた。一体何だろう……? 疑問げに箱を見つめるリヒテンシュタインから荷物を受取って、スイスは怒気とも取れるオーラを発しながら「どうせロクなものじゃない。……そんな予感がする」だなんて言っている。

乱暴にテープを剥がしてストロベリーカラーのラッピングを破ると、お菓子や調味料の類を納めるのに丁度いいような平たい箱が現れた。
スイスはそのまま腕組みをすると、透視を試みているのか穴を開けようとしているのかじいっと凝視しだす。リヒテンシュタインはその微動だにしない光景を息を潜めて見守るしかない。
しばらくしてスイスは鼻を鳴らし、

「リヒテンシュタイン……これは恐らくお前宛てだ」

まさか見えたのでしょうか。そんな、ただの勘に違いない。お兄様の眼光がいくら鋭いからといって……
リヒテンシュタインは戸惑いながら返された箱を抱いて、此処で開けてみても? と問う。

「好きにすればいいのである」

お兄様は日本さんがあまり好きではないらしい。……ヨハンナ・スピリの小説絡みでしょうか? もしくは同族嫌悪? スイスはまた数学書に目を戻してしまう。
リヒテンシュタインはわくわくどきどき、箱を開けた。

「おっ、お兄様?!」

リヒテンシュタインの引っ繰り返った声に何事だ、とスイスがうっそり顔をあげる。

「見て下さいまし、」

ほら、とリヒテンシュタインは紅潮した頬で、引っ張り出した物をスイスの目の前に掲げて見せた。
視界に飛び込んだ物体にスイスは柳眉を歪めて、

「それは、何だ。……給仕服であるか?」

にしては少し違和感が。
日本が送って寄越したのは俗に言うメイド服だった。ボリュームのあるフリルで飾られたエプロンに、パフスリーブ袖の自棄にスカート丈が短いチョコレート色のワンピース、カチューシャからパニエからソックス、手袋、靴まで何一つ欠けることなく箱に納められていた。
で、それらを、どうしろと?

「“今流行りのコスプレ衣装です。リヒテンシュタインさんにどうぞ。お礼は写真で結構です。”とメモが……あの、お兄様、着てみてもよろしくて? せっかくいただいた物ですから。か、可愛らしいですし」

掻き抱いたワンピースに真っ赤な顔を埋めて恥ずかしそうに呟くリヒテンシュタイン。
可愛らしい物には滅法弱く、誘惑に勝てた試しがない。
スイスはこめかみに走る鈍痛に呻きながら(ドイツの気持ちがこれほど分かる日は無いと思う)、ひらひらと手を振った。

「自分の趣味を他人にまで押し付けるとは、万死に値するぞ日本。……二回も言わせるなリヒテンシュタイン、好きにしろ」
「はいっ、着替えてきます」

陽だまりに咲く花のような嬉笑を浮かべてリヒテンシュタインはパタパタと走り去った。
……結局着るんだな。彼女は夢中になると周りが見えなくなるタチだ。



スイスが今一つ身が入らなくなってしまった書を持て余しながら(これも全て日本のせいだ)紅茶を飲んでいると、部屋の外からすすり泣くような音がした。
ついつい心配になり椅子から腰を浮かせて呼びかける。

「リヒテンシュタイン?」

すると滅多に軋まないリビングの扉がギギィと怪しく鳴りながら開き、影から泣きそうなリヒテンシュタインの大きなエメラルドの瞳が覗いた。小動物のように此方を窺っている。

「一体どうしたのであるか」
「お兄様……お恥ずかしいのですが、見て下さいまし」

扉の影から出てきたリヒテンシュタインの姿にうっ、とスイスは息を呑んだ。
愛らしさに拍車をかけるフリル尽くしの衣装は確かに彼女にお似合いだった。
チョコレート色の衣装と金髪がよく映えて、まるで一つの極上スイーツのように完成されている。
だが、ほっそりとした足を包むのは薄手のニーソックスのみで、短すぎるスカートとの隙間から真珠のような柔肌の太ももが露わになっている。
普段極端に露出の少ないリヒテンシュタインとのギャップにスイスは唇を静かに引き結んだ。け、けしからん。

しかし、どうやらリヒテンシュタインが泣きそうになっている理由はそのキワドイ部分ではないらしい。リヒテンシュタインは眦に今にも零れ落ちそうなほど涙を溜め込んで、胸元に目を落とした。

「あのっ、あの、布が……余って、しまって、ユルユルなんです」

言われてスイスが横目で見やると、確かに……本来は柔らかく押し上げられるべき場所が無残にしおれていた。純白のレースの上にほたり、とリヒテンシュタインの涙が落下する。

「なっ……! いちいち泣くなリヒ」
「ごめんなさい、お兄様……でも悲しくてっ、せっかく可愛らしいお洋服をいただいたのに、私じゃ着こなせないなんて……うぅ」

手のひらで顔を覆って項垂れるリヒテンシュタインの姿は、日陰で死に絶えそうな向日葵に似ていた。スイスはフォローの言葉を探してしどろもどろになる。

「気にすることなど無い……! 日本の寄越したものだと着なければ良いのだ。それに、む、胸などそのうち大きくなるであろう! イソノボンボンとやらがいいらしいぞ!」
「お兄様、それって……イソフラボン、では?」
「あ、嗚呼。そうとも、言うのである。……何、悩むことなどない。だから泣くな。外見に囚われるのはよくない事だ、うむ。それに、」

カチューシャで飾られたリヒテンシュタインの頭を優しく慰めるように撫で、スイスは朱を帯びて火照る頬を掻きながら目をついとそらす。

「もう充分似合っているではないか。……可愛いぞ」

リヒテンシュタインはハッと涙で濡れた瞳でスイスを見上げて、蕾が綻ぶように微笑んだ。

「ありがとうございます、お兄様」





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